わたしたちのまわりにはさまざまな人がいます。
「見た目」も「考え方」も「感じ方」も。
異なるたくさんの人たちが同じ場所で生活を
していくには、どうしたらいいでしょうか?
スウェーデンの野外プレスクールで
保育士をしている たつみあさなさんに聞きました。
へリー
マリー
たつみあさな さん
おりがみやおにんぎょうあそびも好きだし……、
たくさんありすぎて困っちゃう!
好きなことがたくさんあって迷うよね! マリーは?
日本語では「どろんこ」っていうでしょ。
スウェーデンでは「ゲッガモイヤ」っていうよ。
スウェーデンでは、スウェーデン語が話されているんだ。
ヘリーとマリーはスウェーデン語を知らないよね?
わたしたちはそういうときに「語(hav)」という写真や支援手話を使って話をしているよ。

スウェーデン語「hav」の支援手話

海を表す写真
今日はみんなで感情について一緒に考えてみましょうか。
たとえば、みんなは、朝、園にくるときどんな気持ちになる?

マリーはどうだった?

服が見つからなかったこと、おうちの誰かに伝えられた?
みんなの中には、うれしかったり、悲しかったり、つかれちゃったり、怒ったり、さみしかったり、楽しかったり、いろんな気持ちがあるよね。
あなたの気持ちは、あなたにしか分からない。だから気持ちを伝えるってとても大事なんだ。自分の気持ちを知って伝えられると、あなたが困ったときにどうしてほしいのか、友だちや周りの大人にも分かるんだよ。
北欧ではみんなが違うということを認め合い、
いろんなことをみんなで話し合って決めるという
民主主義の考え方が子どもたちにも浸透しています。
スウェーデンの幼児教育で
大切にしている民主主義について
スウェーデンの教育は、社会が基本とする民主主義の価値観を民主的な方法で学ぶことをとても大切にしています。1歳から5歳の子どもたちが通う就学前学校(プレスクール)では、生活・遊び・対話などを通して、民主主義とは何かを学んでいきます。就学前学校は義務教育ではありませんが、9割以上の子どもたちが登録しています。就学前学校に通う子どもたちは、人種・民族・文化・宗教・言語・家族形態など互いに異なる背景を持ち、障がいの有無もあり、就学前学校の環境は実に多様です。そうした中で、一人ひとり違うことと、人はみな平等であることを、子どもたちに様々な場面でくり返し伝えています。民主主義の価値観を理解する方法として、子どもたちと保育者が輪になって座り対話などをする「集まりの時間」を一日に数回もうけています。輪になって座ることでだれもが対等であるという関係性を育みながら、子どもたちが興味を持っていることを「対話する」、みんなで歌う曲をだれか一人が「代表して選ぶ」、遊びに行きたい場所を「投票して決める」、園内の規則をみんなで「話し合って決める」といった民主的な活動に、どの子も必ず参加できるように配慮しています。
子どもたちが自分らしく生きていくために
性の先入観を植え付けない日々の活動
スウェーデンでは1970年代から働く母親が急増し、保育所不足から待機児童問題が深刻な社会問題になりました。女性が労働者として必要とされながらも「女性は育児と家事、男性は仕事」といった伝統的な性役割の価値観が保育所増設の妨げとなったことから、伝統的な性役割分担をなくし、男女平等の社会をつくる重要性が認識されるようになりました。今世紀に入ってからは就学前学校でも保育者たちは、男らしさ・女らしさのステレオタイプや旧来からの性役割分担に抵抗するという確固たる姿勢で取り組み、今日のスウェーデンに至っています。かつては保育者が、女の子には優しい・おとなしい・思いやりなどの共感性を育むように、男の子には競争心や自信を強化するように促していたことが記事や記録にも残っています。近年では、男の子が転んだ場合に「自分で立てるでしょう」と励ましたり、女の子に対しては「痛かったね。大丈夫?」と慰めたりといった性別により異なる対応を子どもたちにしていないかを互いに意識し合いながら改善を重ねています。また就学前学校の職員に配布される制服についても、黒、緑、赤、青といったスウェーデンで中性とされる色やデザインを使用し、服によって性が決められてしまわないように配慮しています。さらに性役割を強化させてしまう絵本、華やかなドレスで着飾るプリンセス、筋肉が強調されたヒーローの玩具は使用しません。このように幼児教育の現場では、男女の性別で縛られることなく、すべての子どもたちが安心して自分らしく生きられることを大切にしています。
行事やイベントを通して
楽しみながら多様性を学ぶ
子どもたちに民主主義の価値観の理解を促す方法として、ここ最近、行事の役割が大きくなっています。すべての人の平等の価値を伝える行事のひとつに、国連が定めた3月21日の「世界ダウン症の日」があります。この日は子どもも保育者も左右異なる色やデザインの靴下を履いて登園します。これは、染色体の形に似ている靴下を通して、21番目の染色体が3本あることが特徴のダウン症について考えるためです。輪になり足を伸ばして座り、目前に広がるさまざまな柄のカラフルな靴下を見ながら「一人ひとりはみんな違うことと人としての価値はみなおなじであること」の理解を促す話し合い(集まりの会)をしています。目の前の多様な靴下によって、一人ひとり人は違い多様であることを具象化し、靴下の柄や色の違いが良し悪しで評価されることではないように、人の違いも良い悪いではないことを子どもたちに伝えています。子どもたちはカラフルな靴下を履いて歌を歌うという、いつもと違った非日常的な体験を楽しみながら多様性について学んでいきます。
みんなで考えてみんなで決めることは
多様な人々への寛容性を育む
就学前学校で、子どもたちは、遊びや話し合いを通して「すべての人は平等である」という価値観を体験的に繰り返し学んでいきます。すべり台やブランコで遊ぶときには順番に並び、自分の番が来るまで待たなくてはなりません。そんなときにゆっくりな行動に苛立ち、年齢の幼い子や障がいを持つ子を押しのけてしまうことがしばしば起こります。保育者は子どもたちにどうしてそれがいけないのかについての話し合いを根気よく重ねています。そして遊具を使うときにどんなルールがあれば、すべての子どもたちが楽しく遊べるかを子どもたち自身で考え、ルールを決めてもらうこともあります。子ども同士のいざこざに子どもたちが辛抱強く向き合い、保育者は話し合いで解決が導かれるように支援しています。このように自分と人が違うことを認識しながら多くの話し合いを重ねていくことで多様性への寛容さを身につけていくと言われています。