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ヘリーハンセンは、海とともに歩むブランドとして、長年にわたり海洋環境の保全に取り組んできました。H2O PROJECTは、その想いを形にする取り組みのひとつ。海の現状を伝え、美しい海を次の世代へつなぐためのアクションを提案しています。
2025年春夏シーズンからは、ライフスタイルプロダクトの一部に、新たなリサイクル素材「MURON(ミューロン)」を採用しました。日本国内の漁港で回収された使用済みの漁網を、透明性の高い工程を経て再生されたリサイクルナイロン糸です。
このMURONを用いたプロダクトは、海の現場に立つ漁業者やリサイクルの担い手、素材開発に取り組む企業、そしてものづくりを担うヘリーハンセンチームが連携し、生み出されたもの。
ここでは、MURONを通じた取り組みの背景や、そこに込められた想いを、各プロセスに関わる人々の声とともに紹介します。海と暮らしをつなぐ、新たな挑戦が描く未来のビジョンに、ぜひ触れていただけたら嬉しいです。

日本の海から生まれた素材「MURON」とは
「MURON(ミューロン)」は、モリトアパレル株式会社が開発した、廃棄漁網由来のケミカルリサイクルナイロン素材。その最大の特徴は、日本国内で回収された漁網を100%使用していること、そしてその漁網がどの地域で回収されたものかまでトレースできるという、極めて高い透明性を備えている点にあります。
この素材を生み出した発起人である船崎さんは、こう語ります。
「MURONの一番の特徴は、漁網がすべて日本のものであるということです。日本の海で廃棄される網を、日本の会社が自分たちで回収し、自分たちの手で新たな原料へと再生する。そしてそれを、また日本の企業に届ける。このように国内で循環できる仕組みを築いています。」

従来のリサイクル素材との違いは、そのトレーサビリティにあります。
これまで一般的だったのは、「東南アジアで使用された漁網を回収し、台湾の工場で再生糸にする」といった海外を経由した工程。しかし、ヘリーハンセンの商品企画を担当する井上さんは、こうした素材について、自分ごと化しづらいという課題を感じていたといいます。
「ものづくりをしていく中で感じていたのは、環境問題に対して自分ごととして捉えられる瞬間がなかなかないということでした。やはり、自分の暮らしに近いところにある素材やストーリーじゃないと、人はなかなか接点を持てない。だからこそ、日本で回収された漁網を使ったプロダクトであれば、環境という大きなテーマをもっと身近に、そしてリアルに捉えてもらうきっかけになるのではないかと思ったんです。」

その点、今回のMURONは、北海道、千葉、石川などの特定の地域から回収された網を使用。その情報は明確に管理されており、「どこで回収された素材か」を説明することができます。

MURONは、単にリサイクル素材というだけでなく、その素材特性も優れています。初期のリサイクル漁網素材「リアミド繊維」は、漁網率が25%程度で、染色性や強度に課題がありました。それを克服したのがMURONです。ケミカルリサイクルの技術を採用し、ナイロン以外の異物を完全に取り除くことで、漁網100%での再生糸化を実現。糸は真っ白で細く、染色もしやすいため、アパレル用途にも適しています。
MURONはただのリサイクル素材ではなく、「どこで、誰が、どう回収したのか」が明確で、作り手と使い手の間に信頼の糸を紡ぐ、新たな素材なのです。
各地で回収された漁網が、ひとつのプロダクトに生まれ変わるまで
MURONの魅力を語る上で欠かせないのが、その源流となる漁網の回収と再生の現場です。
今回、北海道・厚岸町に拠点を構える工場を訪ねました。漁網回収に携わって36年、地元の漁師さんたちと長年の信頼関係を築いてきた存在です。

「父の代から漁網回収をしているので、根室から釧路のあたりまで、この一帯の漁師さんたちとつながりがあります。漁師さんが持ち込んでくれることもあれば、私が回収に行くこともあります(山本さん)」
かつては漁網を回収・再生し、ペレット化まで手がけていた山本漁網店。その活動を知る漁師さんたちは、処分にもお金がかかる背景もあり、「どうせ捨てるなら再生してほしい」と、使い終えた漁網を自ら持ち込むようになったといいます。


回収された漁網は、まず外に干して汚れや匂いを落とし、手作業で一つひとつ選別していきます。なかには、固まった網のかたまりや、テープ、ロープ、貝殻などが絡まっていることもあり、それらを丁寧に取り除いていきます。その後、300kgから500kgほどずつに圧縮。次の工程へと送られます。
こうして選別された漁網は、北海道にある株式会社鈴木商会へと引き渡されます。ここで漁網は10cmほどに裁断され、再び洗浄・乾燥の工程を経て、熱で溶かされ、ペレット(粒状の樹脂)に加工されます。

このペレットは台湾へと渡り、ケミカルリサイクルの技術によって、高純度なリサイクルナイロン糸へと再生されます。これが、MURONのベースとなる糸です。
この再生工程を担うのが、株式会社リファインバース。同社では品質の安定性にも力を入れており、金属探知機による異物検査を2段階で実施するなど、安全性の担保にも余念がありません。現在は、山本さんのような地域の担い手と連携しながら、青森から九州まで、日本各地に漁網回収のネットワークを広げています。
「リサイクルの意味を理解して協力してくださる方もいれば、まだこれからという地域もあります。ひとつずつ説明しながら、少しずつ広げているところです(リファインバース株式会社 萩原さん)」
誰かの海ではなく、自分たちの海のために
この取り組みが動き出したのは、リファインバースの担当者が、山本さんの活動を知ったことがきっかけでした。
「山本さんがいなければ、この取り組みは始まりませんでした。人と人とのつながりがあってこそ、今の循環の仕組みが形になったんです(萩原さん)」
山本さんが地道に続けてきた漁網回収の現場から、その想いは北海道を越えて本州へと広がっていきました。「この流れを、もっと国内で循環できる形にできないか」という声が生まれ、モリトアパレルもその想いに共鳴し、漁網リサイクルや海洋プラスチック問題への関心をきっかけにプロジェクトへと加わりました。
こうして、リファインバースが手がけている漁網由来のリサイクル原料「REAMIDE(リアミド)」からケミカルリサイクルを経て「MURON」が作られているのです。

ではなぜ、日本の漁網にこだわるのでしょうか?
モリトの船崎さんは、こう語ります。
「海外の漁網だと、どこから来たものか分からない。そうなると、私たちが大切にしている“トレースが効く素材”という価値が失われてしまいます。でも、それ以上に大切なのは、自分たちの海を、自分たちの手で綺麗にしていきたいという気持ちです。誰かの遠い海の話ではなく、自分たちが暮らす場所の話として、ちゃんと向き合いたい。この取り組みは、そんな意識のもとに生まれました。」
また、ごみを世界中に運搬する過程で生じるCO₂の問題にも目を向けると、「地域で出たものは地域で処理する」という考え方が、環境負荷を減らす上でいかに大切かがわかります。
このように、MURONの背景には、それぞれの立場から海と向き合う人々の想いがあります。
回収、再生、ものづくり——その積み重ねが、ひとつの循環として形になり始めています。
日常に寄り添う、サステナブルな選択肢を届けたい

ヘリーハンセンとMURONの出会いは、タラオーシャン財団との取り組みがきっかけでした。フレンチカジュアルを代表するパリのブランド「agnès b.(アニエスベー)」とのコラボレーションを通じて、「海」というテーマで共鳴した中で出会ったこの素材は、ヘリーハンセンにとっても強い親和性を感じるものでした。
「日本で漁網を回収されているMURONに出会って、『これだ!』と思いました。私たちは海にルーツを持つブランドだからこそ、日本の海と向き合う姿勢と強く結びついていると感じたんです(井上さん)」
数あるリサイクル素材の中でも、どこで・誰が・どのように回収したかが明確であることは、MURONの大きな特徴。井上さんは、その透明性に惹かれたといいます。
「見た目ではわからないからこそ、回収元や工程が明確であることは重要です。トレーサビリティがあるから、使う意味がはっきりする。そこに強い意義を感じたことが、プロダクトに採用する決め手になりました(井上さん)」
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最初の採用は、2025年1月に発売したagnès b.とのコラボレーションから。ファッション感度の高い層に向けて、MURONという素材の存在を知ってもらうための第一歩でした。しかし井上さんが見据えていたのは、その先にある“日常への広がり”でした。
「MURONのような素材を、特別なものとして終わらせたくありませんでした。ウインドブレーカーやジャケット、チノパンなど、普段着として気軽に選んでもらえるアイテムに落とし込むことで、自然と手に取ってもらえるようにしたかったんです。」
“選択”が変われば、未来も変わる
井上さんが語るMURONへの想いは、素材だけにとどまりません。
それは、環境問題との距離の縮め方に対する、ブランドとしての向き合い方でもあります。
「島国である以上、海は私たちに近い場所にあります。普段から魚を食べたり海で遊んだりしているのに、漁網の問題や、海に流れるプラスチックのことは案外知られていません。だからこそ、まずは知ってもらうことが大事だと思うんです。自分たちで素材をリサイクルしない限り、海は汚れていくし、関係は良くならない。そのことを身近に感じてもらうのが、私たちの使命だと思っています。」

また、「環境に配慮した素材を選ぶことが当たり前になる時代が来てほしい」とも語ります。
「はじめのうちは、環境意識の高い人たちが買ってくれるかもしれません。でもそれが当たり前になれば、誰もが無理なく選べるようになる。リサイクル素材だから使うというよりは、『これが良いから使う』という選択になってくれたら嬉しいですね(井上さん)」

「MURONが特別な素材であることや、リサイクルであることが論じられずとも、市場に当たり前のように流通し、使われる世の中になって欲しいと願っています(船崎さん)」
現在、ヘリーハンセンではライフスタイルプロダクトの一部にMURONを使用していますが、今後はその全体に広げていこうと考えています。そして2026年春夏以降は、漁網のロープをモチーフにした携帯ストラップなど、アパレル以外のアイテムへの展開も予定しています。
「ライフスタイルのプロダクトにMURONを使っていくことは、私たちにとって一つの良いスタート地点だと思っています。使ってくれる人が増えれば、それだけ回収や再生の流れも加速していく。実際、漁師の数は減っているし、漁獲量も減っている。漁網の量も、昔と比べれば少なくなってきているのは事実です。それでも、まだまだ回収できる漁網はたくさんあります。だからこそ、特別な何かとしてではなく、気がつけば日常のすぐそばにあって、知らず知らずのうちに選んでいるような存在になってくれたら嬉しいですね(井上さん)」

Message
ヘリーハンセンは、H2O PROJECTを通じて、海と人のつながりを見つめ直し、持続可能な未来への一歩を届けたいと考えています。今回採用した素材「MURON」は、ただのリサイクル素材ではなく、日本の海とそこに関わる人々の想いが織り込まれた、もうひとつのストーリーです。
この素材を通じて生まれたプロダクトが、日々の暮らしのなかで誰かの手に渡り、ふとした瞬間に海のことや環境のことに目を向けるきっかけになりますように。そんな小さな気づきの連鎖が、未来を変える力になると、私たちは信じています。
Products

- Price
- ¥13,200 (税込)
- Size
- S、M、L、XL
- Color
- アクアグリーン、アイボリープリント、ミスティグレー、ネイビープリント、オレンジコースト、ブラック
ショートスリーブ バスクシャツ(ユニセックス)
H2O PROJECTの一環として生まれた、リサイクル素材「MURON」を一部に使用したシャツ。MURONは、日本各地の漁港で回収された廃漁網を、国内で再生して生まれたトレーサブルなナイロンです。
ナイロン100%で水や汗に強く、軽やかで柔らかな風合いが魅力。撥水加工に加え、耐海水・耐塩素仕様のため、プールや海でも劣化しにくく、タウンユースから水辺のアクティビティまで活躍します。ゆったりとしたボックスシルエットに開襟のデザイン、貝調ボタンや水抜き穴のあしらいがマリンムードを演出。UVプロテクト(UPF50+)機能も備えており、夏の日差しの下でも快適に過ごせます。
どこで、誰が、どのように回収した漁網なのか——。その背景までたどれる素材を選ぶことが、未来へつながる小さな一歩になる。
そんな想いを込めて仕立てた、夏のスタイルに寄り添う一着です。

- Price
- ¥9,900 (税込)
- Size
- S、M、L、XL
- Color
- アクアグリーン、アイボリープリント、ミスティグレー、ネイビープリント、オーシャンネイビー、オレンジコースト、ウェットロープ、ブラック
バスクミッドショーツ(ユニセックス)
H2O PROJECTの一環として生まれた、リサイクル素材「MURON」を一部に使用したショーツ。MURONは、日本各地の漁港で回収された廃漁網を、国内で再生して生まれたトレーサブルなナイロン素材です。
街でのカジュアルスタイルからビーチまで活躍するミドル丈で、軽くやわらかな肌ざわり。総裏メッシュ仕様により肌離れがよく、快適な着心地を実現しています。
撥水加工やUVプロテクト(UPF50+)も備えており、水辺でのアクティビティにもぴったり。ウエストはゴム+ドローコードで調整可能。股下にはガゼットを配し、動きやすさにも配慮しました。
どこで、誰が、どのように回収した漁網なのか——。その背景までたどれる素材を選ぶことが、未来へつながる小さな一歩になる。
そんな願いを込めてつくった一着です。
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Words
- 海洋プラスチック問題
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日常生活や産業活動から発生した大量のプラスチックごみが、河川や下水などを通じて海に流れ出し、海洋環境に深刻な影響を与えている問題のこと。海に流れ出たプラスチックは自然分解されにくく、何十年も海中や海岸に残り続けます。その結果、海の生態系への悪影響、魚や海鳥の誤飲、マイクロプラスチックによる食物連鎖への影響などが懸念されています。国際的にもG20や国連を中心に対策が進められており、企業や個人レベルでの行動が期待されています。
- リサイクルナイロン
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使用済みのナイロン製品や製造過程で出た廃材を再利用し、新たなナイロン素材として再生させた素材のこと。一般的に、漁網やカーペット、衣類、工場の端材などが原料になり、資源の有効活用や廃棄物の削減、CO₂排出量の低減に貢献できる素材として注目されています。近年では、ケミカルリサイクル(化学的に分解して再合成する方法)やマテリアルリサイクル(機械的に粉砕して再利用する方法)など、技術の進化も進んでいます。